春風や　あくがれいずる歌愛し
　　　　　　　　　　　　　　　　                 　しゅう平
　　　　　　　　　　　　　　　　　


今流行の歌を聴くことはない。若者の者はもちろんだが、NHKの歌謡番組で歌われる演歌も聴くことがなくなった。

ブログでさんざんに批判してきたが、曲の出来が悪く、歌い手が下手とくればとる所はない。

昔から東海林太郎やディック・ミネ、霧島昇の曲をよく聴いたが、最近は伊藤久男のCDを買って楽しんでいる。

この歌手の名前を知っている人はどれぐらいいるだろう。まあ少なくとも60歳以上でないと、歌声も顔もおぼえる機会がなかったろう。

1910年（明治43年)生まれで紅白出場15回。最後は49年前の1964年大晦日、十八番の「イヨマンテの夜」を歌い、私もよく覚えている。

もともと戦時歌謡を歌って戦線の兵士を大いに励ました。軍歌ではないが「建設の歌」は大陸への夢をかきたててくれる名曲である。

その延長線上にあるのが「イヨマンテの夜」だろうが、実にダイナミックな歌い方で気持がスカッとする。

しかし伊藤久男はそこにとどまらず「あざみの歌」や「山のけむり」「君いとしき人よ」などの素晴らしい歌曲を残している。

叙情あふれるリリック(lyric) バリトンで歌う「あざみの歌」や「山のけむり」は実に繊細で心に沁みしみる。

視界がパッと開け幸せな気持ちになる。このどちらでもいいからＣＭに使ったらと思うが、そんなディレクターは多分いないだろう。

以前、ちあきなおみの「黄昏のビギン」がCMに使われ、その美声と情景描写の美しさに度胆を抜かれた経験があるからそう思う。

すぐれた詩人と作曲家の作品を、修練を重ねた歌手が歌うと、こんなにも人の心を打つということを教えてくれる。