恒例の「国際高級時計展（ＳＩＨＨ）」がこのほどスイスのジュネーブで開かれたというニュースが流れた。

機械式時計の最新作が発表され、新聞やネットでも写真が紹介されたが、目の毒、気の毒の垂涎ものばかりである。

ピアジェ、オーデマ・ピゲなどの宝飾時計もいいが、ジャガー・ルクルト、ランゲ＆ゾーネ、ゼニスなどの機械式時計には魅かれる。

スイスの独立時計師たちがインゴットからくり貫いて作った小宇宙のような時計には思わず見惚れてしまう。

もっともこれらの機械式時計はおおむね50万円以上だし、独立時計師の作品となると数百万から数千万円はする。

こんな時計は金持ちしか手が出ないだろうが、無理して一品を手に入れたとしても美しく精巧な工芸品のようなもので、普段使いはとても無理だ。

結局は豪華な収納ボックスに入れて保管したり、自動巻き上げ機に装着したまま部屋の飾りにすることになる。

スイスの一貫メーカー(エタブリスール、établisseur ）の逸品も欲しいには違いないが、高価過ぎて手におえない。

その腹癒せにシースルーのダンヒルオートマチックやイタリアのセクターの最上級オートマチックを買ったことがあるが、結局は使いきれずに手放してしまった。

唯一残っているのはシチズンエクシードのミニッツリピーターである。機械式ではないが、初期の複雑時計である。

時計のケースの横についているボタンを押すと、現在時刻を美しい鐘の音で知らせてくれる機構がついている。

曜日や24時間計の二つは扇形状で、変わり目には針が瞬間に最初の目盛に戻るという人気のリバースカレンダーである。

これも美麗なレア物で、ごつく重いため、やはり日常使うというわけにはいかない。電池は二年持つがメーカー送りと費用もかかるため、時々見るだけの代物である。

現役を引退する際、手間要らずの正確無比な時計を買おうと、当時出端のソーラー電波時計の最上位、チタンモデルを買った。

電波時計だから正確無比、永久カレンダーやストップウオッチ付と便利で肌にもやさしい万能腕時計だと思ったからだ。しかし今はもう動いていない。

数年して蓄電メーターがあがらないようになり、ソーラーだけに光量不足だろうと腕から外してベランダにぶら下げたりしたものだ。

そのうちメーターは最少レベルに張り付いたままになり、やがて時計自体も止まってしまった。

調べてみた結果、どうやら蓄電用の二次電池が消耗したのが原因で、メーカーに送って取り替える必要あるという結論に達した。

「万能時計」はまったくの誤解であり、電池交換が必要な安価なデジタル時計と同様に面倒なものであることが分かってきた。

やむを得ず昔使っていたオメガやラドーのオートマチックを引っ張り出して使っているが、運動量が不足するためか朝方には止まっていたりしてやはり不便である。

現在もっとも愛用しているのは昭和50年製のセイコーキングクオーツである。ロンジンタイプのオーソドックスなデザインである。

金張りのきれいなクオーツ時計だが、最大の長所は誰もが自分で簡単に電池交換ができることだ。

裏蓋にもう一つスクリュー式の小さな蓋がついて、一円硬貨でねじると簡単に開けられ、百円ショップで売っている電池を挿入するだけ。これで一年は楽にもつ。

35年前にこんな便利な時計ができていたのだ。それに比べると現在のデジタル時計は不便である。

多機能だけに電池が持たず、耐久性もない。電池交換も面倒にできている。今どきカメラやパソコンなどの電池交換に手間取ることはないのだが。

この最大の欠点に気づかないのか、気づかないふりをしているのか、それとも忘れたのか。

先人の貴重な工夫を生かさない日本の時計メーカーは不思議である。