あるフラフェスティバルが一日、北九州市内のホテルで開かれた。フラダンス団体が開く年一回のパーティーである。
この日集まったのは福岡県や山口県下の会員たち約三百人。会員は５０歳から８０歳ぐらいまでの女性たち。平均年齢は推定７０歳ほど。
大広間に大テーブル３０卓を並べて会食しながら、会場内に作った特設ステージで華やかなフラダンスを次々に披露する。
一年間で習い覚えたダンスの中からもっとも得意な出し物を、真新しい衣装を着けて踊りまくる。
黒一点の男性はシャツにネクタイ姿だが、なぜかズボンの上に赤いスカートをはいて黙々と踊る。まことに分を心得た道化ぶりである。
舞台に上ることに怯むような女性は一人もおらず、先を争うようにパフォーマンスを見せる。パーティーはおよそ４時間も続いた。
近頃の中高年女性の威勢は話に聞くが、会場に立ち込めるムンムンムレムレの熱気（加齢臭かも知れないが）はまさに驚異である。
超高齢化社会が来たといわれるが、この主役は特設舞台で肌もあらわに踊りまくるような元気な女性たちであることは間違いない。
古事記では天宇受賣命、日本書紀では天鈿女命天鈿女命（アメノウズメ）が天岩戸の前に桶を伏せて踏み鳴らし、神憑り（かみがかり）して、胸をさらけ出して踊った。
すると、高天原が鳴り轟くように八百万の神が一斉に笑ったという神々の時代。そんな時代が今よみがえったかのような光景であった。
ギリシャの神にディオニュソス（ラテン語でバッコス、英語でバッカスという酒神）がいる。
集団の狂乱と陶酔を伴う東方の神が、熱狂的な女性信者に支持されやがてギリシアの神々の列に加えられた。
哲人ニーチェは節度や個体を破壊し、根源的一者に融合しようとする動的、非造形的な芸術、ディオニュソス祭の熱狂的な音楽を称揚した。
ディオニュソスとは人間を動かす情念であり、歌い踊り、泣き笑うこと。まさにアメノウズメの世界ではないか。
国会中継で男たちの交わす世迷言や潮垂れた顔を見るとき、厳しい時代を生き抜くためのパッションが不足していると思う。
そして今こそ大いなる女性が政治の岩戸を開いて登場する予兆かも知れないと思ったりするのだ。
コメント